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「もう辞めたい。でも貯金がないから無理」——退職の相談でいちばん多いのが、このお金の壁です。ただ、話を聞いていくと必要な金額を一度も計算したことがないという声をよく聞きます。数字が見えないまま不安だけが大きくなり、身動きが取れなくなっている状態です。
人材業界で働く現役のプロ(退職・転職相談500名超)の筆者が、辞めたあとに実際にかかるお金と、貯金が少なくても使える公的制度、動く順番を整理しました。制度の内容は2026年9月時点の情報です。
※すでに眠れない・食欲がないなど心身に不調が出ている方は、「ケース3 心身の不調で働けないとき」から先にお読みください。
結論|辞めるのに必要な金額は、辞め方で3通りに分かれる
一人暮らし・手取り19万円の場合の目安
① 次を決めてから辞める:約20万円(給料日のズレ1ヶ月分+住民税の残り)
② 決めずに辞めて失業保険を待つ:約51万円(生活費3ヶ月分)
③ 心身の不調で働けない:傷病手当金でおおよそ給与の3分の2(貯金より条件の確認が先)
内訳はこのあとの表のとおりです。表には記入欄があるので、ご自分の金額で計算できます。
必要額は「次の収入が入るまでの生活費」と「退職後に届く請求」の合計で決まります。多くの方が見落とすのが後者です。給与から天引きされていた保険料と税金が、退職後は自分あての請求書として届きます。ここを数えていないと、辞めたあとに「思ったより足りない」となります。
辞めたあと毎月いくらかかる?手取り19万・一人暮らしの例
前年の年収300万円・一人暮らしと仮定した場合の目安です。金額は住む地域や家賃で変わるので、右の欄をご自分の数字に置き換えてください。
| 項目 | 例(月額) | あなたの金額 |
|---|---|---|
| 家賃 | 70,000円 | 円 |
| 食費 | 35,000円 | 円 |
| 水道光熱費・通信費 | 20,000円 | 円 |
| 国民健康保険料 | 15,000〜20,000円 | 円 |
| 国民年金保険料 | 17,000〜18,000円程度 | 円 |
| 住民税 | 10,000円前後 | 円 |
| 1ヶ月の合計 | 約167,000〜173,000円 | 円 |
| 3ヶ月分(合計×3) | 約50〜52万円 | 円 |
※金額は一例です。国民健康保険料と住民税は、お住まいの自治体と前年の所得によって変わります。国民年金保険料は全国一律で毎年度改定され、2025年度は月17,510円でした。最新の金額は日本年金機構の公表値をご確認ください。
国民健康保険料と住民税は前年の所得をもとに計算されます。辞めて収入がゼロになっても、しばらくは働いていたころの水準で請求が届きます。これが「辞めた直後がいちばん苦しい」と言われる理由です。住民税の支払い方法は退職後の住民税はいつ・いくら払う?で解説しています。
必要な貯金はいくら?3つのケースで比べる
| 辞め方 | 必要な貯金の目安 | 収入が途切れる期間 |
|---|---|---|
| ケース1 次を決めてから辞める | 約20万円 | ほぼなし(給料日のズレのみ) |
| ケース2 決めずに辞める | 約50〜52万円 | 2〜3ヶ月 |
| ケース3 心身の不調で働けない | 傷病手当金でおおよそ給与の3分の2 | 申請から初回支給まで1〜2ヶ月程度 |
ケース1 在職中に転職先を決めてから辞める
いちばん現金が減らない辞め方です。退職日の翌日に入社できれば社会保険は切れ目なくつながり、国民健康保険や国民年金への切り替え手続きも不要になります。必要なのは給料日のズレをしのぐ1ヶ月分の生活費と、住民税の残りくらいです。
「働きながら転職活動なんて無理」と感じるかもしれませんが、求人探しや面接の日程調整を代行してくれる転職エージェント(求人を紹介し、企業とのやり取りを代わりに行うサービス)もあります。有給休暇を半日単位で使えれば、面接のための時間も作れます。
ケース2 決めずに辞めて失業保険を受け取る
自己都合で辞めた場合、失業保険(雇用保険の基本手当)はすぐには振り込まれません。7日間の待期期間のあとに給付制限があり、2025年4月から自己都合の給付制限は原則1ヶ月に短縮されました(5年以内に3回以上自己都合で退職した場合と、重大な問題行為による解雇の場合は3ヶ月)。
ただし、会社から離職票が届くまでに2週間前後かかり、そこから手続きと認定日を経て振り込まれます。実際の入金は早くても退職から2ヶ月程度になることが多く、離職票の発行が遅れればさらに後ろ倒しになります。生活費は3ヶ月分あると安心です。手続きの流れは失業保険の手続きの流れにまとめています。
ケース3 心身の不調で働けないとき
病気やけが、メンタルの不調で働けない状態なら、貯金より先に検討すべきなのが健康保険の傷病手当金です。1日あたりの金額は「支給開始日以前12ヶ月の標準報酬月額の平均額 ÷ 30 × 3分の2」で計算され、おおよそ給与の3分の2程度になります。支給期間は通算で1年6ヶ月です(2022年1月以降は、途中で復職した期間を除いて支給された日数で通算します)。
退職後も受け取り続けるための条件(ここで事故が起きます)
・退職日までに傷病手当金の受給が始まっていること(辞めてから申請では間に合いません)
・退職日まで健康保険の加入が継続して1年以上あること(退職後の任意継続の期間は含みません)
・退職日に出勤していないこと(あいさつのためでも出社すると要件を満たさなくなります)
体調に不安があるなら、退職を決める前に主治医と、加入している健康保険組合または協会けんぽに相談してください。
要件と申請方法は傷病手当金は退職後ももらえる?で詳しく解説しています。
お金がないときに使える公的制度6つ
「貯金がない=辞められない」と思い込む前に、申請すれば使える制度を確認してください。いずれも自分で申請しないと使えません。
| 制度 | 金額の目安 | 受け取れる時期 | 申請窓口 |
|---|---|---|---|
| 失業保険(基本手当) | 退職前の賃金のおよそ5〜8割(上限あり) | 自己都合は7日待期+原則1ヶ月の給付制限後 | ハローワーク |
| 傷病手当金 | おおよそ給与の3分の2・通算1年6ヶ月 | 申請から初回支給まで1〜2ヶ月程度 | 健康保険組合・協会けんぽ |
| 国民健康保険料の軽減 | 前年の給与所得を30/100として計算 | 離職日の翌日から翌年度末まで | 市区町村の国保窓口 |
| 国民年金の免除・納付猶予 | 保険料の全額または一部が免除・猶予 | 申請後、審査を経て適用 | 年金事務所・市区町村 |
| 住居確保給付金 | 家賃相当額を自治体が大家に直接支払い(上限あり) | 原則3ヶ月(延長の制度あり) | 自立相談支援機関 |
| 求職者支援制度 | 無料の職業訓練+月10万円の給付金 | 訓練の受講中(毎月の要件確認あり) | ハローワーク |
国民健康保険料の軽減は「対象者」が決まっている
前年の給与所得を30/100として計算する軽減は、誰でも使えるわけではありません。対象は雇用保険の特定受給資格者・特定理由離職者で、離職時に65歳未満の人です。倒産、解雇、雇い止め、正当な理由のある自己都合退職などが該当し、判定は雇用保険受給資格者証などに記載された離職理由で行われます。単純な自己都合退職は対象外です。
対象外でも、自治体によっては収入が著しく減少した場合の減免制度を設けていることがあります。取り扱いは自治体ごとに異なるため、お住まいの市区町村の窓口でご確認ください。なお、軽減も減免も自分から申し出ないと適用されません。退職後に健康保険を任意継続と国民健康保険のどちらにするかは、任意継続と国保の選び方で比較しています。配偶者や親が会社員で、自分の見込み収入が扶養の基準を下回る場合は、家族の健康保険の扶養に入る方法もあります(収入の要件や手続きは、その健康保険に確認してください)。
求職者支援制度は要件が厳しい|失業保険を受給中の人は対象外
月10万円という金額だけを見て期待すると落胆しやすい制度です。失業保険(基本手当)を受給できる人は対象外で、給付金には本人の収入、世帯全体の収入、世帯の金融資産などの要件があります。訓練を欠席すると支給されない月もあります。
要件の具体的な金額は改定されることがあるため、必ずハローワークで最新の条件を確認してください。仮に給付金の要件を満たさなくても、職業訓練そのものは無料で受けられるため、資格を取りながら次を探す手段としては検討する価値があります。
給付制限は、教育訓練を受けると解除される
2025年4月からの新しい扱いとして、離職期間中または離職前1年以内に、自分で費用を負担して教育訓練を受けた場合、自己都合退職でも給付制限がかかりません。対象となる訓練の範囲は決められているため、受講を決める前にハローワークで確認してください。
辞める前にやる順番|お金の不安を減らす7ステップ
1. 固定費を書き出す
家賃・通信費・サブスクなど、辞めても減らない支出を合計します。ここが毎月の最低ラインです。
2. 給与明細の控除欄を見る
住民税の月額と社会保険料が分かります。退職後は同じくらいの額が自分あての請求として続くと考えてください。
3. 退職月によって住民税の払い方が変わることを知る
1月から5月に辞めると、その年度の残額が最後の給与などから一括で差し引かれます(手取りが大きく減ります)。6月から12月に辞める場合は、自分で納める普通徴収か、一括徴収かを選べます。
4. 有給の残日数を調べる
有給を消化してから退職日を設定すれば、給与が入る期間がその分延びます。残日数は給与明細や勤怠システムで確認できます。
5. 在職中に転職活動を始める
応募だけでもしておくと「辞めたら無収入」という前提が崩れます。必要な貯金が51万円から20万円に下がる、いちばん効果の大きい一手です。
6. 退職日と賞与の支給日を確認する
支給日に在籍していることを条件にしている会社もあります。就業規則の賞与の項目を必ず確認してください。
7. 健康保険をどうするか決めてから、退職を伝える
任意継続は退職日の翌日から20日以内の申請が必要で、期限を過ぎると選べません。ここまで数えてから伝えれば、引き止められても「いつ辞めるか」を自分の数字で説明できます。
それでも「今すぐ辞めたい」ときの考え方
ここまでは「数えてから動く」話でしたが、例外があります。体が壊れかけているときは、お金より先に離れることを優先してください。眠れない、食欲がない、朝に体が動かないといった状態が続いているなら、それは根性の問題ではありません。判断の目安は心が限界のときに出るサインにまとめています。
働けない状態になってからでは、傷病手当金の要件を満たす準備も、転職活動もできません。治療にもお金と時間がかかります。先に離れて制度でつなぐほうが、結果的に失うものは小さくなります。
「お金がないのに退職代行にお金を払うのは本末転倒では?」
もっともな疑問です。自分で退職を伝えられるなら、費用をかける必要はありません。検討する価値があるのは、引き止めが続いて退職日が決まらない、体調が悪化しているなど、辞められない状態が続くことで失う金額のほうが大きい場合です。費用は運営元によって幅があり、おおむね2万円台から5万円台(弁護士が対応する場合はこれより高くなることが多い)です。辞められないまま1ヶ月過ごす損失と並べて比べてください。
お金の不安と、辞められない状況は分けて考える
お金は制度と計画で見通しを立てられますが、心身の健康は取り戻すのに時間がかかります。言い出せずに時間だけが過ぎているなら、会社に伝える工程だけを外部に任せる方法もあります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 貯金ゼロでも辞められますか?
在職中に転職先を決めてから辞める形であれば、貯金がほとんどなくても現実的です。給料日のズレと住民税の支払いをしのげるかが分かれ目になります。一方、決めずに辞める場合は失業保険の入金まで早くても2ヶ月程度かかるため、貯金ゼロでの退職はおすすめできません。
Q2. 失業保険はいつから振り込まれますか?
自己都合の場合、7日間の待期期間のあとに原則1ヶ月の給付制限があります(2025年4月から短縮。5年以内に3回以上自己都合で退職した場合などは3ヶ月)。離職票の到着や認定日を含めると、実際の入金は早くても退職から2ヶ月程度になることが多く、離職票の発行が遅れるとさらに後ろ倒しになります。具体的な日程はハローワークで確認してください。
Q3. 辞めたあと、国民健康保険はいくらになりますか?
前年の所得と自治体によって変わるため、一律には言えません。多くの自治体が試算に応じてくれるので、退職前に前年の源泉徴収票を持って窓口で確認するのが確実です。倒産・解雇・雇い止めなどで離職し、雇用保険の特定受給資格者または特定理由離職者に該当する場合は、前年の給与所得を30/100として計算する軽減の対象になります。
Q4. 住民税を払えそうにありません。どうすればいいですか?
放置せず、市区町村の納税窓口に相談してください。収入が大きく減った場合、分割納付や徴収猶予に応じてもらえることがあります。相談せずに滞納すると延滞金や差し押さえの対象になるため、早めに事情を伝えるのが最善です。
Q5. 働きながら転職活動をする時間がありません。
求人探しや日程調整を代行してくれる転職エージェントを使うと、自分の作業は面接に近づきます。オンライン面接や土日の面接に対応する企業も増えているため、まず1社に登録して現状を話すところから始めるのが現実的です。
まとめ|数えてから動けば、辞める日は決められる
- 必要なお金は「次の収入までの生活費」+「退職後に届く国保・年金・住民税の請求」
- 手取り19万・一人暮らしなら月17万円前後、3ヶ月で約50〜52万円が目安
- 在職中に次を決めれば必要額は約20万円まで下がる
- 自己都合の給付制限は2025年4月から原則1ヶ月。入金は早くても退職から2ヶ月程度
- 国保の軽減、年金の免除、住居確保給付金、求職者支援制度は申請しないと使えない
- 心身の不調があるなら、傷病手当金は退職日までに受給を始めておくことが条件
「お金がないから一生このまま」ではありません。数字にして、使える制度を確かめて、順番を決める。それだけで、辞める日は具体的に決められます。まずは今月の固定費を書き出すところから始めてください。
※本記事は2026年9月時点の制度にもとづいています。金額や要件は改定されることがあるため、実際の手続きの前にハローワーク、市区町村、年金事務所、加入中の健康保険にご確認ください。

