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「退職金って、いくらもらえるのが普通なの?」「税金でごっそり引かれるって本当?」——退職を考えるとき、手元に残る金額が読めないと踏み出せないものです。
結論からお伝えします。退職金には「退職所得控除」という非常に大きな非課税枠があり、勤続20年で800万円、30年なら1,500万円まで税金がかかりません。多くのケースでは、思っているより税負担は軽くなります。
人材業界で働く現役のプロ(退職・転職相談500名超)が、退職所得控除の計算方法、実際の税額の計算例、2026年1月から変わったルール、手取りを減らさないための注意点まで解説します(2026年8月時点の制度にもとづく解説です)。
そもそも退職金は必ずもらえる?【法律上の義務はない】
最初に前提を押さえます。退職金の支給は法律上の義務ではありません。会社が就業規則や退職金規程で定めている場合に、その内容に従って支払われるものです。
したがって「自分がいくらもらえるか」を正確に知る方法はひとつだけ——自社の退職金規程を確認することです。多くの会社では、勤続年数・退職事由(自己都合か会社都合か)・基本給などで計算式が決まっています。自己都合退職は会社都合より支給率が低く設定されているのが一般的です。
退職所得控除の計算方法【勤続年数別の早見表つき】
退職金は「退職所得」として、給与とは別枠で計算されます。しかもかなり優遇されています。計算の流れは次のとおりです。
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| ①退職所得控除を引く | 勤続20年以下:40万円 × 勤続年数(最低80万円) 勤続21年以上:800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年) |
| ②残りを2分の1にする | (退職金 − 控除額)÷ 2 が課税対象(退職所得)※勤続5年以下は例外あり(下記) |
| ③税率をかける | 所得税・復興特別所得税(合計で速算表の税率)と住民税(10%)がかかる。原則、会社が源泉徴収して完結 |
※障害者になったことが直接の原因で退職した場合は、控除額に100万円が加算されます。
【重要】勤続5年以下の方は「2分の1」の例外があります。役員等(特定役員退職手当等)は2分の1が適用されません。役員以外でも勤続5年以下の場合、控除を引いた後の金額のうち300万円を超える部分には2分の1が適用されません。短期での退職・転職を予定している方は、国税庁の該当ページまたは勤務先の経理担当にご確認ください。
控除額の目安を勤続年数別に見てみましょう。
| 勤続年数 | 退職所得控除額 | この額までは税金ゼロ |
|---|---|---|
| 10年 | 400万円 | 退職金400万円まで非課税 |
| 20年 | 800万円 | 退職金800万円まで非課税 |
| 30年 | 1,500万円 | 退職金1,500万円まで非課税 |
| 38年 | 2,060万円 | 退職金2,060万円まで非課税 |
勤続20年で退職金が800万円以下なら、税金は一切かかりません。控除を超えた分も「2分の1」にしてから課税されるため、給与と比べて税負担はかなり軽くなります。「退職金は税金で半分持っていかれる」というイメージは、実態とかけ離れています。
計算例①:勤続15年・退職金500万円 → 税金ゼロ
控除額:40万円 × 15年 = 600万円
退職金500万円 − 控除600万円 = マイナス
→ 課税対象はゼロ。所得税・住民税ともにかかりません
計算例②:勤続25年・退職金2,000万円 → 税金はいくら?
控除を超えるケースも見てみましょう。実際に「いくら引かれるか」が分かります。
①控除額:800万円 + 70万円 ×(25年 − 20年)= 1,150万円
②退職所得:(2,000万円 − 1,150万円)÷ 2 = 425万円
③所得税:425万円 × 20% − 427,500円 = 422,500円
復興特別所得税を加算(2.1%)→ 約43万1千円
④住民税:425万円 × 10% = 42万5千円
合計の税額:約85万6千円(手取りは約1,914万円)
※所得税は国税庁の所得税の速算表にもとづく概算です。実際の税額は他の所得や控除の状況によって変わります。正確な金額は勤務先または税務署にご確認ください。
2,000万円の退職金でも、税負担は約4%程度。給与で2,000万円を受け取った場合と比べると、圧倒的に優遇されているのが分かります。
絶対に忘れてはいけない「申告書」の提出
ここが実務で最も重要なポイントです。退職金を受け取る前に、会社から「退職所得の受給に関する申告書」を渡されます。これを提出するかどうかで、手取りが大きく変わります。
| 提出した場合 | 提出しなかった場合 |
|---|---|
| 退職所得控除が適用され、適正な税額で源泉徴収。原則、確定申告も不要 | 控除が適用されず、退職金全額に所得税・復興特別所得税として一律20.42%が源泉徴収される(払いすぎた分は確定申告で還付。なお住民税は申告書の有無にかかわらず退職所得の計算に従って徴収されます) |
申告書を出さないと、本来ゼロで済んだ税金が数十万円単位で先に引かれることがあります。会社から案内があったら必ず提出してください。万一出し忘れても、確定申告をすれば取り戻せます。
相談現場でも、退職の慌ただしさの中でこの書類だけ後回しにしてしまい、「振込額が思ったより少ない」と後から気づくケースを見かけます。退職時に渡される書類の中でも、これはその場で書いて返すべき最優先の1枚だと考えてください。
【2026年1月から変更】iDeCoを受け取った人は要注意
2026年1月から、退職所得控除に関するルールが変わりました。iDeCoや企業型DCの一時金を先に受け取っている場合、退職金の控除額が調整される期間が「5年」から「10年」に延長されました(勤続期間とiDeCoの加入期間が重複する部分を控除計算から除く調整のため、重複がなければ影響しません)。
ここで最も誤解されやすいのが「誰が対象か」です。この改正は2026年1月1日以後に支払われる退職手当等に適用されます。つまり、iDeCoを受け取ったのが2025年以前であっても、退職金を2026年以降に受け取るなら10年ルールの対象になります。「自分はもうiDeCoを受け取ったから関係ない」と考えるのは危険です。
なお逆に、退職金を先に受け取ってiDeCoを後で受け取る場合は、従来から別の判定(前年以前14年内)が使われます。順序によって扱いが違うため、どちらのケースも事前確認が必要です。制度の詳細は国税庁「退職金を受け取ったとき(退職所得)」や、加入している金融機関でご確認ください。
退職金の手取りを減らさないための3つの注意点
- ①「退職所得の受給に関する申告書」を必ず出す——最大の落とし穴。忘れると一律20.42%源泉徴収
- ②勤続年数の端数は切り上げ——20年1ヶ月は「21年」として計算されます。あと数日で1年繰り上がるなら、退職日をずらすだけで控除が増えます(勤続20年超なら70万円、20年以下なら40万円)
- ③会社都合と自己都合で支給額が変わる——退職金規程を確認。会社都合の方が高く設定されているのが一般的です
なお、退職金に住民税がかかる場合も、支払い時に天引きされて完結します。翌年に退職金分の請求が改めて来ることは基本的にありません(退職後の住民税の仕組みは退職後の住民税の記事で解説しています)。
よくある質問
Q1. 退職金がない会社は違法ですか?
違法ではありません。退職金の支給は法律上の義務ではなく、会社の規程によります。求人票や就業規則で確認してください。
Q2. 自己都合退職だと退職金は減りますか?
多くの会社で、自己都合は会社都合より支給率が低く設定されています。減額の程度は会社の退職金規程によるため、退職前に必ず確認してください。
Q3. 退職金は確定申告が必要ですか?
「退職所得の受給に関する申告書」を提出していれば、原則として確定申告は不要です。ただし年の途中で退職して再就職していない方は、確定申告をすると税金が戻る可能性が高いです。給与から引かれていた所得税は「1年間働く前提」で計算されているため、年末調整を受けていない場合は払いすぎになっているからです。退職した年の翌年に、忘れずに確定申告をしてください。
Q4. 勤続5年以下だと不利になりますか?
勤続5年以下の場合、2分の1課税の例外があります(役員等は2分の1の適用なし、役員以外も控除後300万円を超える部分は2分の1の適用なし)。ただし勤続5年なら控除額は200万円あり、退職金がそれ以下なら結局課税されません。短期勤続で高額の退職金を受け取る方のみ影響します。
Q5. 退職金は退職後いつ振り込まれますか?
会社の規程によりますが、退職後1〜2ヶ月程度が一般的です。就業規則に支払い時期の定めがあるので確認しておきましょう。生活費の計画は、振込時期を前提に立ててください。
まとめ:税金は思っているより取られない。申告書だけは忘れずに
- 退職金の支給は法律上の義務ではない。金額は自社の退職金規程で確認
- 控除は勤続20年で800万円・30年で1,500万円。超えた分も2分の1にして課税
- 「退職所得の受給に関する申告書」は必ず提出(出さないと一律20.42%源泉徴収)
- 2026年1月からiDeCo受け取り後の期間が5年→10年に延長。順序とタイミングに注意
- 勤続年数の端数は切り上げ。退職日次第で控除が40万〜70万円増えることも
退職金は「もらえる額」より「手取りをいくら残せるか」で差がつきます。制度を知って、損のない辞め方を選んでください。
退職後のお金の全体像は退職後にもらえるお金7選、退職日の決め方は退職日は月末がいい?の記事、手続きの流れは退職後の手続き・やることリストをご覧ください。
退職後のお金を取りこぼさないために
退職金以外にも、失業保険・傷病手当金・健康保険の選び方など、知らないと損をするお金の制度がいくつもあります。退職前に全体像を把握しておくと、手取りは確実に変わります。
なお、有給消化や退職日の設定は交渉によって変わる余地があります。会社と直接やりとりするのが難しい場合は、交渉まで任せられる退職代行という選択肢もあります。

